わたしのたったひとりの
「いーのよ、あんなオトコ、あたしキライだったのホントは」
ボニーがたばこの煙を吐きながらそう言うので、わたしはもうなんだっていいからそのくちびるにはやくキスがしたくって、たまらなかった。『マトリックス』の時のキアヌ・リーヴスに似てるからってセックスした男にフラれたのがどうしても気に入らないみたいだけど、ボニーはとにかくこういう不機嫌な顔をしてるときがいちばんセクシーでカワイイ。でもこんなときにキスなんかしたら絶対に嫌われるに決まってるから、わたしはじっと黙ってピザの破片をかじっている。あ~このトマトソース激マズ。
「知ってる? サラがフットボウラーと付き合いだしたの」
「知らないし、興味もないわ」
「サラのロッカーにファック・ミーって書いたのあたしよ」
「嫌われちゃうわよ」
「嫌われたって構わないのよ、あたし人間なんだモン。あ~あサラなんて死んじゃえばいいのに」
誰かの死を願うようなボニーの目つきは最高にシビれる。一度だけわたしにも「死んじゃえ」なんて言ってきたけど、それはさすがのわたしでもメチャクチャ傷ついちゃったから、やっぱり誰かの不幸を願うようなボニーが一番スキだ。フィルターが口紅だらけのたばこを灰皿に押し付けて、ボニーはくちびるを舐めた。
「みんなヒドいわよ。あたしが悪いことばっかりしてるって思い込んでるの。あたしはただ自分の好きなようにやってるだけなのに。神様はあたしが嫌いなのかしら? あたしきっと不幸の星に生まれたのね。かわいそうなボニー、とってもかわいいボニー」
わたしのピザを横取りしてしまったボニーの、ゆううつな横顔。口紅とトマトソースが混ざってほんとうにおいしそう。わたしは心からおもってる。ねえ、わたしにしなよボニー。わたしさ、あなたのこと大好きなのよ。かわいそうなボニー、とってもかわいいボニー、大好きなボニー。ぜんぶアンタの好きにさせてあげるし言うことだってなんでも聞くわ。キアヌになれっていうんなら整形して銃弾を避けてエクソシストになって愛犬のために人を殺すわよ。ねえボニー。わたしなら、あなたを悲しませたりしないのに。
「ねえ聞いてンの、ブギーマン」
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