とかげごっこ
いちごちゃんが床にはいつくばっていた 白い足がスカートからあられもなくはみ出ているのにも関わらず いちごちゃんは顎の先を床にあててじっと前を見ながら息をひそめる
ねえ、なにしてるの、よごれちゃう
わたしはいちごちゃんの脚を眺めながら言った 日焼けすらしてないきれいな脚 そっと撫でてみたい衝動にかられる
なにって、とかげごっこよ
いちごちゃんは当たり前のことを言うみたいに呆れた
えっなに?
とかげごっこ
とかげ・・・、ごっこ
いちごちゃんははいつくばっている ひらひらと足が動いた わたしはしゃがみこんで床に触れる まるで氷みたいにひんやりしていた
いちごちゃん寒くないの
とかげは寒がったりしないわ
そうだけど、いちごちゃんはとかげじゃないよ
今はとかげなの
指の先についたほこりを払い落としながらいちごちゃんの顔をのぞきこむ 陶器みたいな肌が輪郭のはっきりした鼻を型どっていた ビー玉みたいにつるりとした目玉はとかげとは似ても似つかない
とかげごっこ、楽しい?
いじわるな質問をした いちごちゃんの眉間にはしわが寄っていたし 不服そうなとがったくちびるから とかげごっこの面白さがちっとも伝わってこなかったからだ
あんがい、楽しくないわね
じゃあもうやめたら
でもあたしは今とかげで、れもんちゃんは人間よ
うん・・・、ねえどうしてとかげごっこなの
とかげになりたかったの、一度でいいから
どうして?
しっぽが切られたとき、また生える感覚はどうなんだろうって
でもあたしにしっぽはないし、もしあっても生えてこないわね。だってあたしはとかげじゃないもの。
いちごちゃんは吐き捨てるようにそう言って立ち上がりセーラー服のほこりをはたいた スカートから落ちたほこりはきらきらと光って さっきまでいちごちゃんがはいつくばっていた床に付着する
ねえいちごちゃん
なあにれもんちゃん
わたし、切ってあげようか
…しっぽ?
ないでしょ
じゃあなにを切るの
あし
いちごちゃんの、あし。
わたし、欲しいな。
ちょうだい。
わたしはとんでもないことをくちばしった いちごちゃんの脚を見ながら言ってしまって 慌ててくちびるを両手でふさぐ
ごめんわたし、あ、ちがうの
ふふふ
ちがうのごめんねいちごちゃん
あたしのあしがまた生えてくるならいいわよ
えっ、という言葉をわたしはのみ込んだ いちごちゃんはわらっている
あたし、れもんちゃんになら、あし、あげてもいいよ
そうして彼女は もしいちごちゃんが本当にとかげになったら わたしにあしをくれると約束してくれた ちゃんと細い小指を絡めてくれたから わたしはなんだか恥ずかしくなってうつむいてしまう
そのかわりれもんちゃんがもしとかげになったら、あたしにあしをちょうだいね
これも約束。
わたしのあしなんかどうするの わたしは真っ赤になりながら呟いたけど いちごちゃんはただ微笑んで ゆびきりげんまん嘘ついたら針千本 と歌った
ああはやくとかげにならないかな、あたしたち
小さくわたしがうなずくと いちごちゃんは約束の小指でわたしのくちびるを引っ掻いた ひっかかれたところにみみずばれができそうなくらいの 熱くて痛い衝撃がはしった
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