インザプール
もう夏がおわってしまった ほんとうは泣きだしたいくらいさみしかったわたしは、9月になってもおもいを捨てきれないで ゆらゆら揺れるプールの水をながめていた すこし元気のない太陽の光に照らされた波が、わたしの眼をくるしめる そしてそっと視線をあげると、そこにいちごちゃんがいた
ながい髪の毛は水に浮いてちらばり、黒いスカートもふわふわと漂っている いちごちゃんはプールにしずんでいた 肩から上はなんとか出ているけれど、その表情はどこかさみしげだ きっといちごちゃんも夏がおわるのがいやなんだ わたしがプールに行こうといったとき、いちごちゃんはなんにも言わずにうなずいてくれた
空に浮いてるみたいよ
いちごちゃんはそう言った キャミソールのしたにある下着が、水のせいで透けてしまっていて わたしはどこに眼をむけたらいいのかわからないから、いちごちゃんの髪の毛にそっとふれてみる ふれようとすると波がでて、いちごちゃんの髪の毛はふわりと逃げた
あ、
ねえれもんちゃんも、おいでよ
…でもわたし
わたしの胸は、まだとってもちいさかった だから下着なんかつけていなくて、キャミソールだけがシャツの下にじっとおしだまっている 他の子のことなんてよくしらないけど、たぶんきっと、わたしはちいさいほうなんだ いちごちゃんの胸はみんなよりすこし大きくて、前に腕があたってしまったとき あんまりにもやわらかくてびっくりしてしまったことがあった どうしたらそんなにおおきくなるんだろう かんがえながら、いけないとおもいつつも、いちごちゃんのそこに眼がいってしまう
れもんちゃん、あたし、さみしいの
いちごちゃんがわたしから眼をそらした じっと見つめていたかったのはわたしのほうで、さみしいのもきっとわたしだけだ いちごちゃんがひきとめようとする夏はもう帰ってしまった すぐそばに秋がきている
ねえいちごちゃん 風邪ひいちゃうよ
れもんちゃん、おねがいよ こっちに来て
でも、
れもんちゃん
いちごちゃんがこっちを見た 一度頭の上までつかったいちごちゃんの前髪はしっとりと濡れて、ひたいに張り付いている くちびるはすこし色を失くしていた ふるえているように見えて、はっとする
れもんちゃん、ひとりにしないで
いちごちゃんは泣いていたのかもしれない だけどぬれたほっぺたがあるだけで そうなのかそうじゃないのか、わからなかった わたしは、息をのんでから、そろりと、足を水面につける ゆっくりゆっくり、水圧にさからいながら、いちごちゃんにちかづいた いちごちゃんはやがて、たえきれなくなったみたいにして、わたしにだきついてくる ゆるやかな波紋がきれいで きれいで きれいで、
いちごちゃん いちごちゃん いちごちゃん
ただいちごちゃんの名前を呼んだ なんてうつくしい名前なんだろうと、おもった
わたしが泣いていることに、気が付いていないふりをして いちごちゃんはわたしの胸にすがりついていた わたしの小さな胸が、おしつぶされそうで、だけど、いとおしくて わたしはいちごちゃんをだきしめかえす
れもんちゃん、好きよ、あたしのれもんちゃん、ずっといっしょにいて
いちごちゃんは、かぼそい声で、うたうように、言った わたしは、お返事のかわりに、ひたすらいちごちゃんをだきしめる いちごちゃんの、プールでひえた大きな胸が、わたしに ふれていた 心臓がとびでてきてしまいそう と、おもいながら ほろほろ、泣いた
---Special Thanks / Kuchiba---
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