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始発を待っている間、音楽を聞き流しながらもぼうっとしていたので、思わずうつらうつらと船を漕いでしまっていた。急に覚えた喉の違和感に、不可抗力で出た咳を吐き出してから、はっとして辺りを見渡す。そうして此処がどこだったかを理解したあと、まだこのどうしようもない現実から抜け出せていないことに気がついた。昨日、彼女の家で、彼女に言われた言葉がふと頭に浮かんでくる。「ねえ」彼女はやわらかな唇をすこし震わせていた。何を言われるのかわかって、 俺は中途半端に立ち上がりかけた自分のそれが、じわじわと大人しくなるのを感じる。「あなた、わたしのことすこしもわかってない」確かにそう言われた。一字一句違わず、彼女は俺に向かってそう言った。駅のホームに、朝を迎えた電車が滑り込んでくる。その音にかき消された、思い出の中の彼女の泣き声。(わかっていないのは、お前もなのに)(だって俺はなんだって我慢ばかりで)(お前のわがままに応えてあげていたのに)(どうして俺が)ふらりと揺れた体が、 寝言を交えるように重力に従った。「あっ」どんなに辛い事を言われたって、どんなに嫌な事をされたって、他の人なら耐えられたっていうのに。後ろに並んで いた女性の悲鳴が耳を劈いて、ホームに俺の意識が飛び散った。(おまえだけは、)(いつかおれをあいしてくれるって、) 気の遠くなるような轟音の中で、 俺は愛の夢を見る。




過去作(10/04/16)
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